血液細胞の形態異常と分子異常〜Pelger-Huet 核異常をめぐって〜
血液細胞形態異常として日常よく遭遇するものに好中球低分葉核異常のPelger-Huet 核異常(以下ペルゲル)がある。本来、遺伝性ペルゲル核異常として1928 年オランダ人医師Pelger と1932 年Huet により報告され、骨髄異形成症候群(以下MDS)の特徴の一つでもあり本例では偽ペルゲル異常として区別される。
遺伝性ペルゲル核異常の原因遺伝子は、2002 年ドイツのHoffmann らにより報告された。細胞周期間期の核クロマチンは核脂質二重膜を形成している核膜上の蛋白であるラミンB レセプター(LBR)と強く結合し(図1)転写抑制複合体を形成しているが、LBR の量的減少や分子異常がペルゲル異常を引き起こす。最も多いヘテロ接合体異常では好中球は2分節でメガネ状となるが、極めて稀なホモ接合体では短角の丸い核となる。MDS では約1/3 の症例で偽ペルゲル異常が見られ(図2)、形態的に遺伝性例と区別がつかないが、核クロマチン凝集が強い傾向にある。図1.核クロマチンとラミンB レセプターの構造(http://biotechhelpline16.blogspot.jp)
また、進行がんに対する抗悪性腫瘍剤としてタキソイド系薬剤(ドセタキセル、パクリタキセル)は乳がん、胃がん、非小細胞肺がんなどで適応となる。本剤投与患者においても同様な形態変化をきたし日常よく観察される異常である(図3)。本剤の機序は微小管脱重合阻害作用であり、有糸分裂期における微小管に作用し微小管が束となった紡錘糸の重合を安定化させ(図4)、有糸分裂後期において紡錘糸をバラバラの元に戻す微小管脱重合を阻害しG2/M 期で停止する。
微小管脱重合阻害剤は有糸分裂終期における核膜再形成時のシグナル伝達障害を生じLBR の合成障害が起きていると推測されている。また本年6 月30 日アメリカFDA は、ドセタキセルにエタノールが含まれるために患者に中毒や悪酔いをもたらすことを警告している。細胞周期に関与する遺伝子異常はシグナル伝達異常、細胞の成熟障害をきたし様々な形態異常の原因となる。
今後の網羅的ゲノム解析により、遺伝子異常と細胞形態異常との関連性も明らかになっていくことが期待される。
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日本染色体遺伝子検査学会 理事
自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床検査部
園山 政行